京都大原三千院といえば、風格のある門跡寺院や本堂の往生極楽院(おうじょうごくらくいん)、金色に輝く阿弥陀三尊像が有名ですが、見所はそれだけではありません。聚碧園(しゅうへきえん)と有清園(ゆうせいえん)という苔が美しい2つの古い庭にもまた趣があります。
春には桜、梅雨時は紫陽花、秋には紅葉、そして冬の雪景色など、四季折々の美しい自然に彩られた境内も魅力にあふれています。大原三千院は京都随一の紅葉の名所と言われています。
池と清流、苔と緑が美しい聚碧園
門跡寺院にふさわしい風格をもつ御殿門をくぐり、拝観手続きを済ませて堂内に入ると、まず目に入る景色は粒庭の枯山水です。限られた空間に作られた小さな庭は、築山に石のバランスがよい落ち着いた趣があります。
さらに進むと客殿に入り、ここから眺められる最初の庭園が聚碧園(しゅうへきえん)です。江戸初期に千利休に茶の湯を学んだとされる茶人・金森宗和(かなもりそうわ)が手掛けた庭と言われています。金森宗和がこの庭に魅了され、自らも手を加えながら、今の深遠にして優美な庭に仕上げました。
池泉式庭園なので手前に池があり、周囲の苔も美しいです。植え込みのある築山が奥にあり、背景に紅葉という造りになっています。小さな清流が流れ、水の動きを感じさせる心地よい音が静かに響いています。
客殿の縁側に座り、静寂の中の庭園を眺めると、時の経過を忘れてしまうようです。木々と池、苔と飛び石が見事に調和し、見ごたえがあります。
苔のじゅうたんが見事な有清園
聚碧園には緑(碧)が集(聚)まるという意味があり、庭園内には様々な緑が植栽されています。縁側から右手を見ると、サツキの細長い寄せ垣が湾曲しながら昇っていくのが見事です。
11月にはもみじ祭りが開かれ、聚碧園ではお茶席が設けられます。静かな庭園を眺めながらいただくお茶には、特別な味わいがあります。
宸殿前の庭園は広くて奥行きがあり、真っすぐに伸びたヒノキ、ヒバ、杉の足元には苔がしっとりと生え揃っています。ここ有清園では、まるで緑のじゅうたんのような苔庭が雄大です。苔と美しい池、そしてスギやヒノキが作る圧巻の景色は池泉回遊式庭園と呼ばれています。こちらも聚碧園と同じく金森宗和の作とされています。
春から夏にかけては青々しい緑が育ち、もみじもまだ青いほどです。その中にも春にはシャクナゲが豪華な花を咲かせ、一段と濃い緑の中に映えます。夏には鮮やかさが増した苔、冬には美しい雪化粧が楽しめます。
秋にはひときわ紅葉が美しい庭に
紅葉の季節には有清園の通路は人だかりとなり、奥にある往生極楽院も見えづらいほどです。中央に真っ直ぐに伸びる通路の両側は苔と紅葉のじゅうたんです。苔もひとつの種類ではなく、多くの種類によって深みのある世界が創り出されています。人が入れない庭だけは静けさを保ち、変わらぬ美しさを見せてくれます。
左手には弁天池があり、水辺と木立の景色が落ち着いています。有清園は秋の紅葉がとりわけ美しく、散った紅い葉も緑の苔に生えて、シーズンを通して魅力的な景色です。
往生極楽院の正面に回り込むと、阿弥陀堂の内部には国宝の阿弥陀三尊像が安置されています。阿弥陀如来、観音菩薩、勢至菩薩の三尊が神々しく、思わず手を合わせて拝みたくなります。
往生極楽院の南側には朱色をした朱雀門があります。小さな門でありながら存在感があり、石垣に挟まれ、緑に囲まれた様が心に残ります。これは極楽院を本堂としていた頃の正門にあたり、今の門は江戸時代に再建されたものです。
東洋の宝石箱と称された美しい庭
朱雀門から進むと、石灯篭を目印とした苔地があり、近年人気のある地蔵菩薩やわらべ地蔵とともに苔庭を愛でることになります。可愛らしい童地蔵は数体あり、これは石彫刻家の杉村孝氏の作ったものです。寝そべっていたり、苔に埋もれていたりと和ませてくれます。
三千院がある大原は「日本の紅葉の名所100選」にも選ばれています。大原の里は寒暖の差が大きい山間の盆地であるため、秋の紅葉の鮮やかさは格別です。その美しさゆえ、有名なCMにも使われたほどで、記憶に残っている人も多いでしょう。紅葉の季節だけでなく、1年を通して美しい自然で人々の心を癒しています。
聚碧園は豊臣秀吉に命じて作られた庭と言われています。聚碧園と有清園の美しさについては、昭和を代表する作家の井上靖が「東洋の宝石箱」と賞賛しました。豊臣秀吉と井上靖が見た景色が、今も変わらずあるのでしょうか。そんなことを考えるといっそう思いが深く、2つの庭の光景を眺めては感慨にふけってしまいます。
まとめ
京都駅から大原三千院へのアクセスは、バスの場合は「大原バス停」まで約60分、そこから徒歩で10分です。地下鉄とバスを乗り継いだ場合も所要時間は約1時間となります。
三千院は庭園が有名ですが、他にも見ておきたい魅力のある場所があります。天台宗の大事な法要を行う「宸殿」や、有清園の中の瑠璃光庭の中にある「往生極楽院」などです。「往生極楽院」は平安時代に建てられ、国宝である本尊の木造阿弥陀如来及両脇侍坐像が安置されています。